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「何はともあれ、林殿とまたこうしてお会い出来たことを嬉しゅう思いまする。 …少し、おれになられましたね」
「初春の頃より、肺のいまして」
「まぁ、大丈夫なのですか!?」
「お陰様にて、今は落ち着いておりまする。薬湯を飲み、安静にしていれば、どうという事はございませぬ」
「──ならば良かった」
濃姫は安堵の息をいたが、やはり秀貞に対して、違和感を覚えていた。Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
秀貞の視線は定まっておらず、関係のない方向にばかり黒目が動いているのだ。
目の前には信長もいるというのに、彼の方へも、まるで視線がいっていない。
「……林殿。そなた、もしや」
濃姫がこうとすると
「恐れながら御台様。はもう、かつての秀貞ではございませぬ。
どうぞ某のことは、“ ” とお呼び下さいませ」
床板の上に双の手をつかえ、深く頭を下げた。
「南部但馬?」
「秀貞が、京に住まいを移してから使うておる名じゃ。そうであったな?」
「はい。某はもう織田家重臣ではなく、ただの隠居の年寄りにございますれば、な肩書きなど不必要にて」
「何を申す、今の名も十分大仰ではないか」
「お…、これはしたり」
そう言って、秀貞は信長と笑い合った。
信長によって追放されたはずなのに、秀貞の表情には怨みの色一つなく、実に和やかである。
亡くなっていたかと思えば生きていて、今は別の名で暮らしているという…。
濃姫にはもう、何がなんだか分からなくなっていた。
「──突然そちの方から対面をう書状が届いた故、驚いたぞ」
「申し訳ございませぬ。急ぎ、上様に申し上げたき儀がございましたもので」
「儂に申したいこととは何じゃ?」
「まことに勝手ながら…… 都を離れまして、へ移る決心を致しましてございます」
「安芸──へか?」
「左様にございます。この二年、上様のご活躍と、おであるこの安土の発展を、
ほど近き京の都より見守り続けて参りましたが、この度 病の療養も兼ねて、安芸へ移住することを決心致しました」
「されど芸州は遠い。今までのように都住まいでは駄目なのか?」
「上様のご尽力もございまして、今の都は昔よりも活気に溢れて、人々も華やいでおりまする。
この老体には都はあまりにも賑々しく、と致すのなら、豊かで、のどかな場所をと思いまして」
「…左様か」
「これまでのように、密かに登城し、上様のご機嫌伺いに参じることは出来なくなりまするが、
安芸の地にて、上様の天下布武、ならびに織田家のご安泰と発展を、心よりお祈り致しておりまする」
そう言って、秀貞はその白髪混じりの頭を、今一度 低く垂れるのであった。
信長への挨拶の後、濃姫は茶の湯で持て成しがしたいと、秀貞を別室へと誘った。
力丸たちに命じて、ひと気のない一室に茶釜や道具類を急いで運ばせると、
濃姫は秀貞と距離を取りつつ相対し、かつての筆頭家老の為に心を込めて茶をてた。
「──どうぞ」
やがてその茶を秀貞の前に差し置くと、彼は視線を正面に固定したまま、
手探りで茶碗を見つけ、それを作法を守りながらした。
相手が茶を飲み干すのを見届けてから
「やはり、お目が不自由なのですね?」
濃姫は小さな声でねた。
秀貞は一瞬 驚いたような表情を浮かべたが、すぐに穏やかなちになると、手にしていた茶碗をそっと畳の上へ置いた。
「気付いておられましたか」
「ええ。私がよく知る者の中にも、の者がおります故」
濃姫は、胡蝶の乳母であった