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「おい!聞いとんのかボケ!」
男は土方の肩を掴んだ。
「「あ゛ぁ!?うるせぇ!黙っとけや!」」
ガンッ
「っだぁ!」
二人同時に追手を睨み付け、土方が蹴り、山崎は折れた棒でスネを打った。
とんだとばっちりである。
「あ!兄貴!」
したっぱが駆け寄った。
「く…とことんイラつくやっちゃなぁ…!やれ!」
足を擦りながらしゃがみ、命令を出した。
それと同時に一気に囲まれる。
「こりゃ喧嘩してる場合じゃねぇなぁ」
「みたいやなぁ」
しゃがみ込んでいる山崎が立ち上がった。Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
「おいおい。大丈夫なのか?」
「こんぐらいなんともないわ」
その間にもジリジリと距離は詰まる。
「話は後にして、今回は協力しねぇか?」
「同感や」
土方が山崎に刀を投げた。
パシッ
山崎は片手で綺麗に受けとる。
「それ使え。俺はまだ後一本ある」
土方はスラリと刀を抜いた。
前を見据えて構える。
「すまん」
山崎も刀を抜いた。
「かかれぇ!」
一斉に相手は掛かってきた。
二人は刀を振り回す。
結局五分もしない間に敵は片付いた。
一番偉そうにしていた男は腰を抜かす始末だ。
「はぁ…」
山崎は座り込んだ。
土方は敵に縄を巻きながら山崎を見る。
「大丈夫か?」
「まぁなんとか」
さっきよりは角が取れた受け答えだ。
「それより、兄ちゃん、土方さん。やっけ?めちゃくちゃやけどかなり強いな」
「まぁな。お前も中々だったけどな」
山崎は足を負傷しているのを気にさせないぐらいの働きをした。
本当はかなり出来るな。そう思ったが、悔しいから言わなかった。
土方は縄をくくり終わり、山崎に歩み寄った。
胸元から紙袋を出す。
山崎に差し出した。
「なんやこれ」
山崎は暗闇の中、袋の文字を目を凝らして読む。
「い…しだ…散薬?」
「そう。石田散薬だ。俺んとこの薬で打ち身切り傷なんでも治る」
「うさんくさ」
山崎はジト目で土方を見た。
「な!騙されたと思って飲んでみろ!」
山崎は仕方なく中身を出した。真っ黒い粉だ。
「毒で俺を殺す気?」
「違うわアホ!」
土方は山崎にげんこつを落とした。
山崎は涙目で頭を擦る。
「飲め」
土方に急かされ、山崎は嫌そうに飲んだ。
「まっず!」
「うるせぇ!」
「本間に毒ちゃうか?」
「違うわ!」
山崎は眉間に皺を寄せていた。
「まぁいい。俺はもう行くぜ」
土方は縄を引っ張って敵を立たせた。
「そういやなんでそいつ殺さんの?連れていくん?」
「だから、俺は壬生浪士組だ。怪しい不逞浪士を取っ捕まえていろいろ吐かせるんだよ」
「そんな組織やったん…」
山崎は目を見開いた。
「!」
まずい…。
いろいろ吐かれたら俺の素性もバレる。
山崎は焦り出した。
「あ。おい」
「な…なんや?」
山崎は頭をフル回転させるが何も良い案が浮かばない。
まさか…。俺も連れていかれる?
「お前、俺らと来ねぇか?」
「は?」
山崎はすっとんきょうな声を出した。
「最初見たときから尋常じゃない足の速さが気になっていた。それに加え、刀も強い。一緒に来ねぇか?壬生浪士組に」
「そう言われてもなぁ…。壬生浪士組知らんし」
「壬生浪士組はいずれは天下を取る。皆が知ることになる」
どこからの自信か、土方は言い切った。
天下を取る…。か。
俺は、このままこんなことをやり続けるか、この言葉を信じるか。
「そいつ調べたら分かる。俺の素性。酷いで?」
「大丈夫。うちは訳ありばっかだ」
土方は笑った。山崎も笑った。
「よろしく」
土方が山崎の素性を知るのにはそう時間はかからなかった。
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――必ず戻ってくるのでしょう? と目で訴えてくる。
「いや、しかし……」
戸惑う義久を前に、
「こうすればよい」
と、イダテンが首にかけていた革紐を引いて懐から緋色の勾玉を取り出すと、周りの空気が一変した。
どのような珠玉とて、自らの力で輝くことはない。
だが、この透きとおった緋色の勾玉は、やせ細った月の下で鼓動でも打っているかのような怪しげな光を放っている。
イダテンは、その勾玉を姫の首にかけた。
「これは?」
と言って、姫は言葉を詰まらせた。
義久が代弁した。
「なんと言う奇妙な……まるで生きてでもいるかのような」
その輝きに目を奪われた。Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
「母の形見じゃ」
イダテンは、二人の様子にはかまわず、義久が先ほど兼親から奪った大太刀に手を伸ばし、下緒を背負子の横木に結びつけた。
「これでよかろう」
イダテンの機転に姫の表情がなごむ。
そして、こぼれるような微笑みを浮かべ、義久に花を所望した。
「春になったら……皆で、苺を摘みに出かけましょう」
義久も照れながら笑顔で応えた。
おそらく童のころのような無邪気な表情だっただろう。
欠けていく月を仰ぎ見る。
ふらつきながら尻をあげる。
袴も岩も赤黒く血に濡れていた。
負傷したのは黒駒だけではなかったのだ。
砦を突破するときに飛んできた鉄片らしい物が義久の横腹に突き刺さったのだ。
姫の様子を気にして振り返ったときだ。
僥倖だった。
義久が振り返ったことで、抱きついていた姫の体の位置が変わった。
まっすぐ向いたままであれば、姫の華奢な背を貫いたであろう。
加えて、あの燃え上がる炎と喧騒が――黒駒の尻に刺さった矢が、義久の負傷を隠してくれた。
イダテンが持っていた呪符の効力を聞いて、八幡大菩薩に感謝した。
これで自分の役割が見つかったと。
痛み止めも、喉から手が出るほど欲しかった。
しかし、それを口にすることはできなかった。
捨て駒となって、追手を引きつけようとしていることを姫に悟られるからだ。
だが、これも菩薩の加護だろうか。
イダテンが別れ際に、「痛み止めだ。その馬にやれ」といって丸薬を二つくれた。
黒駒には悪いが自分で飲みくだした。
これで務めが果たせるだろう。
ふらつく足で黒駒に近づき、尻を叩いて帰そうとするが、なかなか離れようとしなかった。
「来世で出会うたら、必ずおまえの主人になろう。わしを信じよ」
首筋を、なでてやると目を細めた。
そして、信じていいのかとばかりに義久の目を見つめ、鼻筋をこすりつけてきた。
結局、黒駒は動かなかった。
まるで本当の主人の帰りを待つかのように。
かわいいやつだ。
だが、感傷にふけっている刻はない。
策として見れば、黒駒が、ここに留まることは悪くない。
怪我をした馬を捨てたと見るだろう。
馬の鞍と、そのかたわらにある岩の上は血に濡れている。
血の跡も点々と山に続くことだろう。
崖の続く峡谷で、数少ない傾斜地だ。
迷わず大人数を割いてくるに違いない。
*
山に入ると樹木が風をさえぎってくれた。
枝や、からみつく蔦をかき分け、太刀を杖に、落ち葉を踏みしめ、斜面を登る。
聞こえてくるのは自分の呼吸音のみだ。
童が火吹き竹を吹いているような情けない音がする。
どれほど登ってきたのだろう。
本当に、自分のやっていることには意味があるのだろうか。
わずかでも、刻を稼ぐことが出来ているのだろうか。
足を止めると、ふくらはぎが震えはじめた。
こむら返りでも起こせば二度と斜面を登ることはできないだろう。
懐から呪符を一枚抜き出した。
下の方が何やら騒がしくなってきた。
ようやく痕跡を見つけてくれたようだ。
「何はともあれ、林殿とまたこうしてお会い出来たことを嬉しゅう思いまする。 …少し、おれになられましたね」
「初春の頃より、肺のいまして」
「まぁ、大丈夫なのですか!?」
「お陰様にて、今は落ち着いておりまする。薬湯を飲み、安静にしていれば、どうという事はございませぬ」
「──ならば良かった」
濃姫は安堵の息をいたが、やはり秀貞に対して、違和感を覚えていた。Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
秀貞の視線は定まっておらず、関係のない方向にばかり黒目が動いているのだ。
目の前には信長もいるというのに、彼の方へも、まるで視線がいっていない。
「……林殿。そなた、もしや」
濃姫がこうとすると
「恐れながら御台様。はもう、かつての秀貞ではございませぬ。
どうぞ某のことは、“ ” とお呼び下さいませ」
床板の上に双の手をつかえ、深く頭を下げた。
「南部但馬?」
「秀貞が、京に住まいを移してから使うておる名じゃ。そうであったな?」
「はい。某はもう織田家重臣ではなく、ただの隠居の年寄りにございますれば、な肩書きなど不必要にて」
「何を申す、今の名も十分大仰ではないか」
「お…、これはしたり」
そう言って、秀貞は信長と笑い合った。
信長によって追放されたはずなのに、秀貞の表情には怨みの色一つなく、実に和やかである。
亡くなっていたかと思えば生きていて、今は別の名で暮らしているという…。
濃姫にはもう、何がなんだか分からなくなっていた。
「──突然そちの方から対面をう書状が届いた故、驚いたぞ」
「申し訳ございませぬ。急ぎ、上様に申し上げたき儀がございましたもので」
「儂に申したいこととは何じゃ?」
「まことに勝手ながら…… 都を離れまして、へ移る決心を致しましてございます」
「安芸──へか?」
「左様にございます。この二年、上様のご活躍と、おであるこの安土の発展を、
ほど近き京の都より見守り続けて参りましたが、この度 病の療養も兼ねて、安芸へ移住することを決心致しました」
「されど芸州は遠い。今までのように都住まいでは駄目なのか?」
「上様のご尽力もございまして、今の都は昔よりも活気に溢れて、人々も華やいでおりまする。
この老体には都はあまりにも賑々しく、と致すのなら、豊かで、のどかな場所をと思いまして」
「…左様か」
「これまでのように、密かに登城し、上様のご機嫌伺いに参じることは出来なくなりまするが、
安芸の地にて、上様の天下布武、ならびに織田家のご安泰と発展を、心よりお祈り致しておりまする」
そう言って、秀貞はその白髪混じりの頭を、今一度 低く垂れるのであった。
信長への挨拶の後、濃姫は茶の湯で持て成しがしたいと、秀貞を別室へと誘った。
力丸たちに命じて、ひと気のない一室に茶釜や道具類を急いで運ばせると、
濃姫は秀貞と距離を取りつつ相対し、かつての筆頭家老の為に心を込めて茶をてた。
「──どうぞ」
やがてその茶を秀貞の前に差し置くと、彼は視線を正面に固定したまま、
手探りで茶碗を見つけ、それを作法を守りながらした。
相手が茶を飲み干すのを見届けてから
「やはり、お目が不自由なのですね?」
濃姫は小さな声でねた。
秀貞は一瞬 驚いたような表情を浮かべたが、すぐに穏やかなちになると、手にしていた茶碗をそっと畳の上へ置いた。
「気付いておられましたか」
「ええ。私がよく知る者の中にも、の者がおります故」
濃姫は、胡蝶の乳母であった
「──では此度の件で、平手家に対するお咎めなどは何もなかったのですね?」
「はい。五郎右衛門殿共々、平手様のご子息方は今まで通り織田家で仕えよとの、殿の仰せにございます」
その報告に、濃姫の口から安堵の息が漏れた。
信頼はしていても、信長はやはりあの気性。
怒りに任せて平手家を断罪するのではないかと内心不安に思っていたのだが、どうやら杞憂に終わったようである。
「また殿は、平手様の御霊を弔うべく、沢彦和尚を開山に、政秀寺(せいしゅうじ)なる菩提寺を新たに建立なされる由にございます」
「まぁ、殿が平手殿の為に寺を!?」Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service
「左様に伺っておりまする」
千代山が目で首肯すると
「そうでしたか。──あの殿がそこまで」
姫は清廉なその面差しに、暖かさに満ちた微笑を浮かべた。
政秀に対する信長の特別な思いが伝わって来るようで、濃姫も嬉しかったのである。
信長の供養によって政秀の御霊も随分と慰められる事だろう。
良き行いだと、濃姫も一先ず安堵を得ていると
「それに致しましても、あの平手様が身罷(みまか)られたとは、ほんに悔やまれるばかり。
享年六十二……人間五十年と言われる今の世にては、大往生やも知れませぬが」
千代山は虚空に視線を泳がせながら、憮然とした様子で独りごちた。
「されどこれで、殿の奇抜なお振る舞いも少しは改まりましょう。
平手様は、その為に自刃あそばされたと申しても過言ではないのですから」
千代山の言葉に、濃姫は思わず眉根を寄せた。
「平手殿の自刃により殿のお振る舞いが改まるとは…、どういう意味です?」
姫の問いを受け、千代山は驚いたように身体を前に突き出した。
「まぁ、ではお方様は、例の噂をご存じないのですか?」
「例の噂?」
「恐れながら、家中では平手様の死は、ご乱心の末の自刃と思われておりまするが、
近頃 民百姓たちの間では、それとは異なる自刃の経緯が囁かれているのでございます」
「民たちの間で !?」
訃報だけならばともかく、政秀逝去の委細までもが民百姓たちの間に広まっている事実に、濃姫は目を丸くした。
誰が民間にそんな情報を流したのか…。
気になったが、先に伺うべきは噂の中身である。
「して、その噂というのは?」
「それが、実は──」
千代山は上座に少しにじり寄ると、声をひそめるようにして一件を語り出した。
一方 那古屋城・表御殿の裏庭では、信長が一人、黙々と弓の稽古に勤しんでいた。
遠くの小さな的を狙って、シュ!シュ!シュ!と、凄い速さで矢を射てゆく。
それでも正確に的の中心に当たったのは僅か二、三本ばかり。
いつもの調子が出ないのか、何度となく弓を持ち変えては次の矢を放つ。
長らくこれを繰り返していた。
するとそこへ
「──大変驚き入りました」
と、背後から濃姫が、前触れもなく歩み寄って来た。
「…お濃か」
信長は引いていた弓を下ろし、姫を横目で一瞥する。
「今。民百姓の間で広がっているという、平手殿の御自刃に関する噂を聞き、私、とても驚いているのですよ」
姫の言葉に、信長の片眉がピクリと波うった。
「何でも噂では、平手殿が自刃あそばされたのは『うつけな振る舞いの絶えぬ信長公を、自身の死をもってお諌めする為』だったとか?」
「……」
「あのような幼き子までもが、政略の道具に使われようとは…。何と哀れな」
濃姫は竹千代が置かれている状況を知り、深く同情していた。
何せ自分自身も美濃から来た人質のようなものである。
幼くして敵方に拐われ、実父まで亡くした竹千代よりは、自分の方がずっとずっと恵まれているが、
心の底にある不安や悲しみといった感情は、きっと自分のそれと同じ色をしているはずだと姫は信じて疑わなかった。https://www.easycorp.com.hk/en/notary
( ※…一説には萬松寺が建立されたのは信秀の死後ともされる )
「信長様とのお約束云々と申しておりましたが、あの若君は殿とお親しいのですか?」
濃姫が気になって訊ねると、和尚は笑んで首肯した。
「信長様は竹千代殿を大変お目にかけられているご様子で、時折あのようにお召し出しになっては、共に鷹狩りや槍の稽古などに勤しんでおられまする」
「まぁ、あの殿が」
「ええ。信長様と竹千代殿は、まるで年の離れたご兄弟のよう。
きっと信長様は、竹千代殿の中にご自分を見ておいでなのでしょうな」
「ご自分を?」
「信長様はそのご気性故に、周りからの理解が得られぬことも多く、お気を許した相手意外には決してお心を開かれぬお方です。
毅然としておられても、内心は孤独──。きっと信長様は、幼くして尾張の人質となり、
お父上からも見捨てられた竹千代殿に、同じ孤独を感じられたのでしょうな」
「殿が…孤独?」
「そうはお思いになられませぬか?」
「ええ…。これまで幾度も殿を間近で拝して参りましたが、あのお方が孤独なように見えた事はございませぬ。
頻繁に側近の者らと出掛けておりますし、私にも、あった事、思うた事などをありのままにお話し下さいます。
よくお笑いにもなられますし……殿がお寂しそうに見えた事など一度もありませぬ」
濃姫の話を聞き、和尚は「ほぉ」と驚いたように息を吐いた。
「さすれば信長様は、姫様にはお心を開いておられるのでしょうな」
優しい口調で述べられたその言葉に、濃姫は思わず苦笑する。
「まさか、その逆でございます。殿は未だに、私を妻として認めても下さいませぬ。
今とて、私のもとへは朝昼晩の御膳を食しに参る程度でございますのに」
「姫様。心を許していない相手の部屋で食事をとられるほど、信長様は能天気なお方ではございませぬぞ」
「……」
「あのお方のことです。未だにあなた様に左様な態度を取るのは、きっと確証が欲しいからなのでしょうな」
「…確証、と申されますと」
「あなた様が、信じるに値するお方かどうかの、確証にございます」
信長と全く同じことを言う和尚の目が、一本の線のように細まった。
濃姫は驚いてしまって、空き部屋を貸してもらう為に、体調の悪いふりをしていた事さえもすっかり忘れていた。
──半刻後。
萬松寺の空き部屋へ移ったはずの濃姫、三保野、お菜津ら一行の姿は、尾張の民たちが賑やかに行き交う街道にあった。
三人とも木綿の何とも質素な着物を身に纏い、まるで異国人のように、辺りをきょろきょろと見回しながら歩いて行く。
「…さすがは商業が盛んな尾張の街。何とも賑やかなこと」
「姫様、そうお一人でどんどん先へ進まれまするな!迷い子になりまするぞ!」
「わかっておる、三保野。絶対にそなたたちから離れたりはせぬ」
「お願い致しますよ。私たちは寺から密かに抜け出して、ここまでやって来ているのですから。
はぐれでもしたら、最悪 迎えに来てくれる者はいないのですからね」
「はい、はい。よう心得ておりまする」