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――必ず戻ってくるのでしょう?

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――必ず戻ってくるのでしょう?

――必ず戻ってくるのでしょう? と目で訴えてくる。

「いや、しかし……

 

戸惑う義久を前に、

「こうすればよい」

と、イダテンが首にかけていた革紐を引いて懐から緋色の勾玉を取り出すと、周りの空気が一変した。

 

どのような珠玉とて、自らの力で輝くことはない。

だが、この透きとおった緋色の勾玉は、やせ細った月の下で鼓動でも打っているかのような怪しげな光を放っている。

イダテンは、その勾玉を姫の首にかけた。

「これは?」

と言って、姫は言葉を詰まらせた。

 

義久が代弁した。

「なんと言う奇妙な……まるで生きてでもいるかのような」

その輝きに目を奪われた。Notary Public Service in Hong Kong| Apostille Service

 

「母の形見じゃ」

イダテンは、二人の様子にはかまわず、義久が先ほど兼親から奪った大太刀に手を伸ばし、下緒を背負子の横木に結びつけた。

「これでよかろう」

 

イダテンの機転に姫の表情がなごむ。

そして、こぼれるような微笑みを浮かべ、義久に花を所望した。

 

「春になったら……皆で、苺を摘みに出かけましょう」

義久も照れながら笑顔で応えた。

おそらく童のころのような無邪気な表情だっただろう。

欠けていく月を仰ぎ見る。

 

ふらつきながら尻をあげる。

袴も岩も赤黒く血に濡れていた。

 

負傷したのは黒駒だけではなかったのだ。

砦を突破するときに飛んできた鉄片らしい物が義久の横腹に突き刺さったのだ。

姫の様子を気にして振り返ったときだ。

 

僥倖だった。

義久が振り返ったことで、抱きついていた姫の体の位置が変わった。

まっすぐ向いたままであれば、姫の華奢な背を貫いたであろう。

加えて、あの燃え上がる炎と喧騒が――黒駒の尻に刺さった矢が、義久の負傷を隠してくれた。

 

イダテンが持っていた呪符の効力を聞いて、八幡大菩薩に感謝した。

これで自分の役割が見つかったと。

 

痛み止めも、喉から手が出るほど欲しかった。

しかし、それを口にすることはできなかった。

捨て駒となって、追手を引きつけようとしていることを姫に悟られるからだ。

 

だが、これも菩薩の加護だろうか。

イダテンが別れ際に、「痛み止めだ。その馬にやれ」といって丸薬を二つくれた。

黒駒には悪いが自分で飲みくだした。

これで務めが果たせるだろう。

 

ふらつく足で黒駒に近づき、尻を叩いて帰そうとするが、なかなか離れようとしなかった。

「来世で出会うたら、必ずおまえの主人になろう。わしを信じよ」

首筋を、なでてやると目を細めた。

そして、信じていいのかとばかりに義久の目を見つめ、鼻筋をこすりつけてきた。

結局、黒駒は動かなかった。

まるで本当の主人の帰りを待つかのように。

 

かわいいやつだ。

だが、感傷にふけっている刻はない。

 

策として見れば、黒駒が、ここに留まることは悪くない。

怪我をした馬を捨てたと見るだろう。

馬の鞍と、そのかたわらにある岩の上は血に濡れている。

血の跡も点々と山に続くことだろう。

 

崖の続く峡谷で、数少ない傾斜地だ。

迷わず大人数を割いてくるに違いない。

 

     *

 

山に入ると樹木が風をさえぎってくれた。

枝や、からみつく蔦をかき分け、太刀を杖に、落ち葉を踏みしめ、斜面を登る。

 

聞こえてくるのは自分の呼吸音のみだ。

童が火吹き竹を吹いているような情けない音がする。

どれほど登ってきたのだろう。

 

本当に、自分のやっていることには意味があるのだろうか。

わずかでも、刻を稼ぐことが出来ているのだろうか。

 

足を止めると、ふくらはぎが震えはじめた。

こむら返りでも起こせば二度と斜面を登ることはできないだろう。

 

懐から呪符を一枚抜き出した。

 

下の方が何やら騒がしくなってきた。

ようやく痕跡を見つけてくれたようだ。

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