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市村と田村に弱いのは

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市村と田村に弱いのは

市村と田村に弱いのは、なにも大人だけではない。

 

 じつは、相棒も弱いのである。

 

 おれがどれだけ懇願しようとも、相棒はぜったいにききいれてはくれなかっただろう。

 

 だが、市村と田村が相棒を両脇から抱きしめ、notary public「お願いだよ、兼定」だの「ぽち先生に会いたいんだ。連れていって」だのとおねだりをすると、相棒は「チッ、しゃーねぇな。連れていってやるよ」的にすっくと立ちあがり、とことことあるきだした。

 

 その相棒を市村と田村が過剰なまでに持ち上げつつ、ついてゆきはじめた。

 そのうしろを、おれたちがついてゆく。

 

 安富も、今回ばかりはきたがった。が、弁天台場から沢や久吉たちが戻ってくるだろう。だれもいなければ、かれらも心細い思いをするはずである。

 

 だから、安富は残ることになった。

 

 ぞろぞろとついてゆくと、一本木関門へとつづく道からはずれ、獣道すらない林の中に入ってゆく。

 

 もしかすると、猟師小屋とかそんなところにいるのか?それとも、洞窟?

 

 が、途中で相棒が脚を止めた。

 

 空中に漂うにおいを嗅ぐため、鼻をうっそうと茂る枝葉へと向けた。

 

 それから、進路をかえた。

 

 右手には箱館湾。前方には箱館山がみえる。

 

 一本木関門は、明日、副長が死ぬことになっている。

 

 これまで、通行人から通行料をとっていた。が、いまはもうそんなどころの騒ぎではない。

 

 だから、一本木関門自体は無人である。

 

 俊春は、そんな一本木関門の近くにある赤蝦夷松の幹に背中をあずけ、海を眺めていた。

 

 相棒がその横にお座りをすると、かれはその頭をやさしくなでた。

 

「明日、あの海に浮かぶ朝陽という的に愛されることはあってもな。なにせ、土方さんもを沈めるよう命令を受けているんだ」

 

 かれは、海を眺めたままだれにともなくつぶやいた。

 

『そんなところにいて大丈夫なのか?』

『寝ていなくていいのか?』

 

 思わず、そんなふうに問い詰めたくなった。しかし、かれの雰囲気がそれを許さない。

 

 市村と田村でさえ、躊躇しているようである。

 

「蟻通先生。明日は戦場にでず、鉄と銀といっしょにいてやってください」

 

 俊春は、いまだ海をみたままつぶやくようにいう。

 

 箱館湾には、敵のが浮かんでいる。とはいえ、から砲撃されても届かない海上で停泊している。

 

 明日の総攻撃をまえにし、敵も一息ついているのかもしれない。 史実では、唯一稼働できる蟠竜が朝陽を沈めることになっている。

 

 つい数日前の大規模な海戦で、回天が破壊されてしまった。

 じつは、その海戦で蟠竜もまた致命的なダメージを喰らってしまったのである。

 

 ゆえに、俊春が忍び込んで朝陽を沈めるというわけだ。

 

「ぼくが蟻通先生についていられるのならよかったのですが……。朝陽を沈めてからによっていては、箱館山までいけそうにありません」

「案ずるな。ともに死ぬことになっているとともに、箱館山にはちかづかぬ」

 

 粕屋は、という。江戸出身で、もとは回天隊の隊士であったが、蝦夷で新撰組に移籍してきたのである。

 ぶっちゃけ、変わり者である。

 

 その粕屋は、蟻通と箱館山で死ぬことになっている。

 

 俊春は、あきらかに調子が悪そうである。いや、そんななまやさしいものではない。いつぶっ倒れてもおかしくないだろう。それどころか、ここに座って海をみている、なんてことをしていること自体がそもそもおかしいっていうレベルである。

 

「ごめん。ぼくにはかれを止められない」

 

 かれは短く息を吐きだしてからを上げ、おれとは、すっかりかわってしまっている。いまにも泣きだしそうなのを、必死で我慢している。

 そんなを目の当たりにすると、途端に胸が痛くなってきた。

 

 あの雨の夜、俊春と俊冬はおれを追ってさえこなければよかったんだ。

 

 おれと相棒だけが、ここにくればよかったんだ。

 

 そうすれば、こんな目に合わずにすんだはずだ。

 

 だが、二人がいたからこそ、死ぬはずだった多くのが救われた。

 

 多くの奇蹟は、おれの幕末史オタとしての知識だけではけっしてなしえなかった。

 

 二人の力とスキルと知恵があるからこそ、である。

 

「もういい。もういいんだ。きみも俊冬も、もうなにもするな。副長もふくめ、死ぬはずの者もそうではない者も、まとめて逃げればいい。どうせ降伏するんだ。これ以上は戦っても無意味なんだから」

 

 両膝を湿った土につけ、かれと目線を合わせた。包帯だらけの上半身に軍服の上着を羽織っているだけである。

 

 その包帯も、血がにじんでいる。

 

 かれを抱きしめたい、という衝動にかられた。

 

 華奢な体で、どれだけ暴れ、大活躍をしたことか。

 野村や伊庭をはじめとして、どれだけ多くの

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